生命保険は法人でも契約ができることから、目的に応じて使われることがあります。
今回は、
- 保険料の経理処理
- 契約者配当金の経理処理
- 保険金・解約返戻金などの経理処理
- 払済保険に変更時の経理処理
- 名義変更時の経理処理
などを纏めました。
ご検討の方は是非、ご参考ください。
注:ブログ作成時点の情報を元に作成しております。実際の経理・税務処理の際は国税庁ホームページなどでお確かめください。また、当ブログは生命保険の加入を勧めるものではなく、あくまで一般的な説明をするためのものです。
保険料の経費処理
法人が支払った保険料は。保険の種類および契約形態によって経理処理が異なります。
表 方針が支払った保険料の経理処理
保険の種類 | 支払保険料の経理処理 |
定期保険、特約など (貯蓄性のない商品) |
「定期保険料」や「特約保険料」として 損金算入 |
保険金の受取人が法人の場合の 養老保険、終身保険、年金保険など (貯蓄性の高い商品) |
「保険料積立金」として 資産計上 |
(養老保険、終身保険、年金保険などで) 保険金の受取人が被保険者または 被保険者の遺族となっている場合 |
給与 |
定期保険(貯蓄性のない商品)
定期保険の保険料の経理処理は次のようになります。
契約者 | 被保険者 | 死亡保険受取人 | 経理処理 |
法人 | 役員・従業員 | 法人 | 損金算入 |
役員・従業員の遺族 | 損金算入※ |
※ 特定の役員・従業員を被保険者とする場合は、給与扱いとなる
終身保険
終身保険の保険料の経理処理は次のようになります。
契約者 | 被保険者 | 死亡保険受取人 | 経理処理 |
法人 | 役員・従業員 | 法人 | 資産計上 |
役員・従業員の遺族 | 給与 |
養老保険
養老保険の保険料の経理処理は次のようになります。
契約者 | 被保険者 | 満期保険金受取人 | 死亡保険受取人 | 経理処理 |
法人 | 役員・従業員 | 法人 | 法人 | 資産計上 |
役員・従業員 | 役員・従業員の遺族 | 給与 |
契約者=法人、被保険者=役員・従業員」とする養老保険のうち、一定の要件を満たしたものは、支払保険料の2分の1を損金算入(福利厚生費)とすることが認められます。
これを1/2養老保険(ハーフタックスプラン)といいます。
契約者 | 被保険者 | 満期保険金受取人 | 死亡保険受取人 | 経理処理※ |
法人 | 役員・従業員の全員 | 法人 | 役員・従業員の遺族 |
1/2は資産計上 1/2は損金算入 |
※ それぞれ保険料積立金と福利厚生費として経理処理される
定期保険および第三分野の保険
第三分野の保険とは、医療保険やガン保険、介護保険などが当たります。
これまでは定期保険はそのタイプごとに取り扱いが整理されていたが、2019年7月8日以降の契約に対して、同一の基準が適用されることになった。
なお、既契約についてはこれまでの経理処理が継続される。
最高解約返戻率※1 |
50%超 70%以下 |
70%超 85%以下 |
85%超 |
資産計上期間 | 保険期間の当初40% | 最高解約返戻率となる期間※2 | |
資産計上 | 40%を資産計上 | 60%を資産計上 |
1年目から10年目 保険料×最高解約返戻率の90% 11年目以降 保険料×最高解約返戻率の70% |
損金算入 | 60%を損金算入 | 40%を損金算入 | 上記の残額 |
取崩期間まで | 当期分保険料の全額を損金算入 | ||
資産計上額の 取崩期間 |
保険期間の75%相当期間経過後 | 解約返戻金相当額が最も高い期間経過後 | |
当期分保険料の全額を損金算入するとともに資産計上した前払い保険料を保険期間終了 |
※1 最高解約返戻率50%以下の場合、全額損金算入
※2(解約返戻金相当額‐直前期間の解約返戻金相当額)/年換算保険料相当額>70があるときは最も遅い期間
これらの期間が5年未満のときは5年とし、保険期間が10年未満のときは保険期間の50%相当期間となる。
(その他)
- 年未満の端数があるときは、資産計上期間は月単位で計算し、月未満の端数は月未満の端数を切る捨てる。取崩期間も月単位で計算するが、月未満の端数は切り上げる。
- 「資産計上期間」経過後、取り崩しまでの保険料は、保険期間の経過に応じて損金算入する。
- 解約返戻率に端数が生じた場合、端数の切り捨ては行わずに最高解約返戻率を計算する。なお、実務の現状を考慮し、少数点2位以下の端数を切り捨てている場合。それによる区分の判定は問題ないものとされている。
- 最高解約返戻率が70%以下で、かつ、年換算保険料相当額(1人の被保険者につき2以上の定期保険等に加入している場合にはそれぞれの年換算保険料相当額の合計が30万円以下の保険に係る保険料を支払った場合については、その支払った保険料の額は、原則として、期間の経過に応じて損金の額に算入する。
例外規定として、保険期間を通じて解約返戻金がなく(ごく少額の払戻金のある契約を含む)、保険料の払込期間が保険期間よりも短いもので、当該事業年度に支払った保険料額が1人の被保険者につき30万円以下のときは、その支払った日の属する事業年度の損金に算入することができる。
長期平準定期保険(2019年7月7日までの契約)
長期平準定期保険とは、下記の要件をどちらも満たした期間の長い定期保険のことです。
- 保険期間満了時の被保険者の年齢>70
- 契約者の年齢+保険期間×2>105
貯蓄性が高く、中途解約の時期によっては多額の解約返戻金が発生するため、一般の定期保険とは異なる支払保険料の経理処理を行います。
- 前半6割の期間:1/2は損金算入、1/2は資産算入
- 後半4割の期間:全額損金算入、加えて前半に資産計上した金額を残りの期間で取り崩して損金算入
長期平準定期保険の保険料を支払った時の仕訳を示すと、次のようになります。
例:年払保険料が24万円、保険期間が30年の場合
前半18年間で毎年12万円ずつ資産計上されているので、資産計上されている金額は総額216万円です。
これを後半12年間で取り崩すので、1年間の取崩額は18万円となります。
当初18年(前半6割)
借方 | 貸方 |
定期保険料(損金)12万円 前払保険料(資産)12万円 |
現金・預金 24万円 |
残り12年(後半4割)
借方 | 貸方 |
定期保険料(損金)24万円 前払保険料(資産)18万円 |
現金・預金 24万円 前払保険料 18万円 |
逓増定期保険
逓増定期保険は、貯蓄性が高く、中途解約の時期によっては多額の解約返戻金が発生するため、一般の定期保険とは異なる経理処理を行います。一定の要件に該当する場合、長期平準定期保険と同じく、保険期間の前半の6割の期間は、保険料の一定割合を損金算入しますが、長期平準定期保険よりも区分が細かくなっています。
(2008年2月28日以降、2019年7月7日までの契約)
対象となる保険期間 |
前半6割期間 |
後半4割期間 |
備考 | |
① | 保険期間満了時の被保険者の年齢>45 |
1/2損金算入 1/2資産計上 |
各年の保険料は全額損金算入 資産計上した前払保険料を残存期間内で均等に取り崩し、損金算入 |
②③を除く |
② |
保険期間満了時の被保険者の年齢>70 かつ 契約時の年齢+保険期間×2>95 |
1/3損金算入 2/3資産計上 |
③を除く |
|
③ |
保険期間満了時の被保険者の年齢>80 かつ 契約時の年齢+保険期間×2>120 |
1/4損金算入 3/4資産計上 |
‐ |
(2008年2月28日までの契約)
最高解約返戻率 |
前半6割期間 |
後半4割期間 |
備考 | |
① |
保険期間満了時の被保険者の年齢>60 かつ 契約時の年齢+保険期間×2>90 |
1/2損金算入 1/2資産計上 |
各年の保険料は全額損金算入 資産計上した前払保険料を残存期間内で均等に取り崩し、損金算入 |
②③を除く |
② |
保険期間満了時の被保険者の年齢>70 かつ 契約時の年齢+保険期間×2>105 |
1/3損金算入 2/3資産計上 |
③を除く |
|
③ |
保険期間満了時の被保険者の年齢>80 かつ 契約時の年齢+保険期間×2>120 |
1/4損金算入 3/4資産計上 |
‐ |
- 対象となる保険契約を判定する際は、③⇒②⇒①の順に行う
- 前払期間(前半6割期間)も1年未満の端数がある場合には、その端数を切り捨てた期間を前払期間とする
個人年金保険
契約者 | 被保険者 | 満期保険金受取人 | 死亡保険受取人 | 経理処理 |
法人 | 役員・従業員 | 法人 | 法人 | 資産計上 |
役員・従業員の遺族 | 役員・従業員 | 給与 | ||
役員・従業員の遺族 | 法人 |
90%は資産計上 10%は損金算入 |
ガン保険
2012年4月27日以降、2019年7月7日までに契約した終身保障タイプのガン保険(被保険者は役員・従業員、保険金等受取人は法人、保険料は終身払込み)は、加入時の年齢から105歳までの期間を計算上の保険期間とし、保険料の経理処理は、次のようになります。
- 前半5割の期間:1/2は損金算入、1/2は資産算入
- 後半5割の期間:全額損金算入、加えて前半に資産計上した金額を残りの期間で取り崩して損金算入
保険料が短期払いの場合
- 貯蓄性の保険(養老保険、終身保険など):保険料支払いのつど資産に計上
- 貯蓄性のない保険(定期保険など):払込保険料の総額を保険期間で按分し、その年度に対応する部分だけを損金算入
例:年払保険料が150万円、保険期間が25年、保険料払込期間10年の定期保険の場合
①保険料払込期間中
借方 | 貸方 |
定期保険料(損金)60万円 前払保険料(資産)90万円 |
現金・預金 150万円 |
定期保険料(損金):150万円×10年=1500万円
1500万円÷25年=60万円
前払保険料(資産):150万円-60万円=90万円
②保険料払込終了から満期まで
借方 | 貸方 |
定期保険料(損金)60万円 |
前払保険料 60万円 |
資産計上額:90万円×10年⁼900万円
定期保険料(損金):900万円÷(25年-10年)⁼60万円
保険金・解約返戻金・給付金等の経理処理
保険金等の誰が受け取ったかによって経理処理が異なります。
法人が受け取った保険金の経理処理
- 資産計上額がない場合:全額を益金算入(雑収入)する
- 資産計上額がある場合:受け取った保険金等と資産計上額との差額を益金算入(雑収入)または損金算入(雑収入)する
例:契約者および受取人が法人の終身保険(既払込保険料の総額は200万円)を解約し解約返戻金220万円を受取った場合
借方 | 貸方 |
現金・預金 220万円
|
保険料積立金(資産)200万円 雑収入(益金) 20万円 |
保険料積立金として資産計上されている(借方に計上されている)既払込保険料を取り崩します。
受け取った解約返戻金220万円と、取り崩した保険料積立金200万円の差額20万円は「雑収入」として益金に算入します。
保険金等の受取人が法人ではない場合
保険金等の受取人が法人ではない場合(被保険者の遺族の場合)は、保険金等についての経理処理は不要です。
ただし、資産計上額がある場合には、取り崩すためにその額を損金算入(雑損失)します。
たとえば、1/2養老保険(ハーフタックスプラン)では、法人が保険料を支払ったときに、支払保険料の半分を「保険料積立金」として資産計上しますが、被保険者(役員・従業員)が死亡した場合、死亡保険は法人ではなく、被保険者の遺族が受け取ります。この場合、法人は資産計上してある「保険料積立金」を取り崩すとともに、相手科目は「雑損失」として処理します。
例:1/2養老保険の保険料積立金が500万円あり、遺族に死亡保険金2000万円が支払われた場合
借方 | 貸方 |
雑損失(損金) 500万円 |
保険料積立金(資産) 500万円 |
契約者配当金の経理処理
積立方式の配当金の経理処理は次のようになります。
- 配当金の通知を受けた場合:配当金の金額と積み立て配当金に対する利子の額を益金算入(雑収入)し、配当金積立金として資産計上する。
- 保険金等とともに配当金を受け取った場合:配当金積立金の資産計上額を取り崩す処理をする
例:契約者配当金10万円、積立配当金の利子1万円の場合
借方 | 貸方 |
配当金積立金(資産)11万円 |
雑収入(益金) 11万円 |
払済保険に変更時の経理処理
保険料の払込を中止し、その時点の解約返戻金をもとに払済保険に変更する場合、変更前の資産計上額(保険料積立金または前払保険料)と解約返戻金との差額を益金算入(雑収入)または損金算入(雑損失)します。
- 資産計上額<解約返戻金 ⇒ 差額を益金算入(雑収入)
- 資産計上額>解約返戻金 ⇒ 差額を損金算入(雑損失)
例えば、契約者および受取人が法人の終身保険(既払込保険料の総額は200万円)を払済保険に変更した場合(契約返戻金相当額300万円)の仕訳はつぎのようになります。
借方 | 貸方 |
保険料積立金(資産)300万円 |
保険料積立金(資産)200万円 雑収入(益金) 100万円 |
名義変更時の経理処理
役員等が退職した場合に、法人契約の保険契約を役員等に名義変更することで、退職金の一部として現物支給することがります。
この場合、解約返戻金相当額を退職金として計上し、資産計上額があれば取り崩します。
一方、役員等は、その契約の解約返戻金相当額が退職所得に係る収入金額となります。
まとめ
今回は、
- 保険料の経理処理
- 契約者配当金の経理処理
- 保険金・解約返戻金などの経理処理
- 払済保険に変更時の経理処理
- 名義変更時の経理処理
などを纏めました。
生命保険の経理処理については、法律がよく変更になることから、実際の契約の際は、最新の情報をよく確かめておくことをお勧めいたします。